God dag!Lone Wolf会計士です。
今回は管理会計の概要を説明していきたいと思います。
これまでのシリーズで解説したきた「財務会計」は過去の事象のみを扱ってきましたが、「管理会計」は過去の事象をベースにしつつも、目線は未来を向いていることが特徴です。
それではいってみましょう。
このブログはこんなブログ
このブログは「グローバル×会計専門性」を目指す人を対象に、「米国公認会計士の魅力やキャリア情報、及び「グローバル×会計専門性」というキャリアを歩むうえで役に立つノウハウが得られる」というコンセプトで運営しています。
前提知識はゼロかつ初心者向けの記事のため、「グローバル×会計専門性」のキャリアを目指すつもりがない方でも、会計のエッセンスの理解に役立つ記事の執筆を心掛けています。
ご参考にして頂ければ幸いです。
管理会計とは?財務会計との違いは?
管理会計とは、経営者の意思決定に役立てるための社内管理用の会計、となります。例えば、
- 製品をひとつ製造するためにいくらコストがかかっているのか?売価をいくらで設定すればよいのか?
- 設定した事業上の目標を達成するために、どのように進捗を管理するか?進捗が芳しくない場合にはどのように対策を取ればいいのか?
- いくら売り上げれば利益が出る事業なのか?
- 新たな意思決定をするための、一般的なルールはないか? 等々
このような悩みに対応するものが管理会計となります。
また、一律のルールで業績を報告する財務会計と違い、管理会計は社内管理用のみに使用されますので、全社一律に適用される決まったルールはありません。よって、社内で管理しやすいようにいくらでもアレンジ可能です。
財務会計とは違い、管理会計はつまるところ社内管理用で門外不出なので、何をやっても怒られないんだね。
ただし、ルールが決まっている財務会計とあまりにかけ離れたことをやってしまうと手間が増えますので、財務会計をベースにすることが一般的かと思います。
工業簿記とは?
管理会計の代表格、工業簿記です。
工業簿記とは、つまるところ原価計算です。商品を一つ売った場合、いくらコストがかかっているのか?を計算することで、結果的にいくら利益が出るのか、ということを計算するものです。
作るのに要した費用額がわからなければ、いくらで売っていいのかもわからないよね…
商品一つ当たりの原価計算については、業種によってその複雑さは異なります。
以下の表をご覧ください。
例えばサービス業であれば、サービス提供にかかった時間×人件費単価で大体の原価計算は完了です。
小売業であれば、商品の仕入量と残っている在庫から原価を計算します。
製造業であれば、商品を製造をするためにかかる直接の材料費や人件費に加えて、工場間接費(例えば工場の電気代等)も考慮して原価を計算する必要があります。
このように、原価を正確に計算するための会計が工業簿記と呼ばれるものです。
損益分岐点分析とは?
さて原価が工業簿記にて正確に計算できたとして、次のステップです。
損益分岐点分析とは、企業で発生する費用を変動費と固定費に分解することで、いくつ売ることで利益が出るのか、その損益分岐点となる販売数量を把握するための分析手法、となります。
分析方法はシンプルです。
「売上高(販売単価×販売数)ー変動費(原価×販売数)ー固定費=利益」
そして利益=ゼロとなる販売数が、損益分岐点売上個数、ということになります。
これだけです。非常に有名ですので、聞いたことがある方も多いかと思います。
ここでいう変動費とは、商品の販売量によって変化する費用です。例えば、かき氷を売る際の直接の材料である氷は、かき氷の販売量が増えれば材料費も増えますよね。
固定費とは、商品の販売量によらず一定である費用です。例えば、かき氷を売る店舗の家賃やかき氷製造機械の費用は、かき氷の販売量が増えても増えませんよね。
以下の例では、かき氷事業は月間100個売り上げれば利益が0(=損益分岐点)、101個以上売り上げれば利益が出る、ということになります。
損益分岐点分析により、「いくらで売ればいいか」と「いくつ売ればいいか」の計画が立てやすくなるね。
なお、長い目で見れば固定費と思われるも変動させることができます。よって、どのくらいの期間において意思決定をするのか、という点も考慮することが重要です。
確かに、3年という期間で考えたら、かき氷店の店舗も変えて家賃を変えることも可能だよね
管理会計上の意思決定とは?
管理会計上、意思決定をどのようにしていけば良いかの一般的なルールを扱っておりますので紹介します。
一般的なルールとして、関連収益・原価(Relevant revenue/cost)と非関連収益・原価(Irrelevant revenu/cost)に分けて、意思決定をするときは関連収益・原価のみを比較する、ということが原則になります。
まずは、関連収益・原価についての概念です。以下の図をご覧ください。3つの条件を満たすような収益や費用のみを考慮する、ということが管理会計の意思決定の原則になります。
かき氷店について例を挙げます。「新規顧客を獲得できそうであるが、そのお客さんから値引き要請があった。値引きに応じるか?」について考えてみようと思います。
このような意思決定をする際は、例えば、以下のような項目が関連する収益・費用となります。
- 新たな注文によって獲得される売上高
- 新たな注文に対して商品を追加的に生産するための費用
- 新たな注文を受け入れるだけの余力があるか?ない場合は追加的な費用を考慮(例えば、受注したら追加で人を雇わないと対応できない等)
- 値引きをすることで、将来の売価が低下することが合理的に予測される場合は、その追加費用
このような関連する収益・費用を考え、追加的に獲得できる売上高が追加的な費用より大きい場合は、値引き要請に応じ受注することが妥当、というように管理会計上は考えます。
なお、このような例において固定費は、意思決定によって発生する金額が変わらないので考慮しないこととなります。
値引き受注しようがしまいが、店舗家賃は発生するから、家賃はこの意思決定上は考慮しないんだね。条件の③が満たされないね
フローチャートの2番目、将来の費用か?ということを考える上でサンクコストという概念が重要だったりしますので、以下で紹介しておきます。
サンクコストとは?
サンクコストとは、過去に発生してしまっている費用のためどうやっても取り返すことができない費用、ということになります。よって、将来の意思決定に影響を与えない(与えるべきでない)費用、ということになります。
例えばかき氷店の例でいうと、かき氷を作る機械で既に出費したお金は、未来でどんな意思決定をしても取り返すことはできませんよね。
このような過去の費用は将来の意思決定では考えないようにすることが重要です。
よく、経営者が思い入れがある事業が赤字で、事業の撤退か継続かという意思決定をする際に、「今までここまで時間と手間をかけたから事業撤退はしたくない」という思いがあるとしても、それを将来の意思決定に持ち込んではいけないということです。
過去には拘らず、将来の話に限定することが必要なんだね。
予算管理とは?
管理会計は経営上の目標を達成するための管理ツールとしても役に立ちます。予算管理とは、設定した中長期的な目標を達成するために、業績進捗をモニタリングし、何を改善すべきなのかを洗い出すためのツール、だとざっくりご理解ください。
上記の図のように、会社として将来あるべき姿を設定しつつ、中期的(5年程度)な目標を設定することが多いと思います。
その中期的な目標を達成するため、1年毎に達成すべき数値が設定されます。
設定した目標は振り返り、PDCAサイクルを回さなければなりません。
そのため、予算として一定期間の目標を詳細に立てて、結果が出た後は実績と予算との対比分析(=予実分析)を実施するのです。
なお、業績はステークホルダーに報告されます。その際には目標が達成できたのかどうかについての議論になりますので、ここでも分析が役に立ってくるのです。
具体的には、以下のような予算を設定することが多いと思います。
- 売上高(販売単価、個数等)
- 売上原価
- 材料調達
- 売掛金や買掛金の回収及び支払い時期
- 販売費及び一般管理費(広告費、人件費、家賃、等に分解して予算管理)
- 設備投資計画
- 資金調達計画(借入金や出資金、配当金)
- その他 (非財務項目、例えば従業員数等)
なお、結局業績の報告は財務三表にて通常行われるので、この財務三表を最終形として管理していくことが多いと思います。上記の具体的な予算詳細は結果的に財務三表にまとめられて、経営者が利用することとなるかと思います。
また、予算管理においては感度分析と呼ばれる手法を用いることも多いかと思います。
感度分析とは、ある変数が変動したらどの程度業績に影響を与えるのかシミュレーションを実施する、ということになります。
上記の例でいうと、例えば売上が20%落ちたら利益が○○%落ちる、ということを予めシミュレーションしておき、どこまで業績の幅が振れる可能性があるのか、ということを把握しておくことになります。
予実分析とは?
さて予算が設定され一定期間経過後業績が確定したとします。予実分析とは設定した予算と実績を比較し、差異がある場合はなぜ差異があるのかを分析し、業績を改善するための将来の打ち手を考える材料とする、ということになります。
具体的には以下のような項目の予実分析を実施することが多いかと思います。
- 販売数量(予想販売数量より少ない量しか売れなかったとしたら、その原因は?)
- 販売単価(予想単価より安くしか売れなかったとしたら、その原因は?)
- 材料調達価格(予想単価より高くしか購入できなかったとしたら、その原因は?)
- 材料使用量(製品を作るのに予想より多くの材料を使っているとしたら、その原因は?)
- 人件費(予想より残業が多く人件費が多くかかっているとしたら、その原因は?)
- 固定費(予想より電気代が高かったら、その原因は?)
このように原因分析を実施し、来年は予算を達成できるように対策が取れるものは取る、ということをします。
対策が取れない原因で予算が達成できないとしたら、予算そのものが非現実的なので見直す、ということもあるかもしれませんね。
運転資本とは?
最後に運転資本とキャッシュフローマネジメントについて紹介させてください。
まず運転資本とは、流動資産から流動負債を引いたもの、となります。
流動資産とは、持っている現金が姿を変えているものの、1年以内に現金化される資産です。よって、流動資産を得るために、現金が(一時的に)消費されています。
例えば、棚卸資産です。棚卸資産は現金を使って購入され、1年以内に販売できる(と思われる)ため、1年以内に現金に姿が戻ってきます。
流動負債とは、1年以内に返済しなければならない負債です。1年以内に現金の流出が起きるものです。よって、流動負債のおかげで、現金を(一時的に)消費しないで済んでいます。
例えば、買掛金です。こちらは後払い契約のようなものです。現金が無くても商品が買えますが、1年以内には返済しなければなりません。
以上から、流動資産から流動負債を引いたものは、現金を準備しておく必要があるのです。
通常、予算において売掛金や買掛金の水準は設定されます。
この水準に基づいていくら現金を準備しておけばいいかがわかります。そうすることによって、銀行からの追加的な借入金額を決定すること等の意思決定をしているのです。
現金がなくなり、負債が払えなくなれば企業は倒産してしまいますので、現金の管理は重要です。管理会計はこのように流動資産・流動負債という概念を使ってキャッシュフローマネジメントに役立つツールとなります。
いかがでしたか?
今回は管理会計の全体像について解説しました。それではまた次回。Vi ses!
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