God dag!Lone Wolf会計士です。
今回はファイナンスの応用編として、将来への投資の意思決定に関して、NPV(Net Present Value)とIRR(Internal Rate of Return)という考え方についてご紹介していきたいと思います。
それでは、いってみましょう。
このブログはこんなブログ
このブログは「グローバル×会計専門性」を目指す人を対象に、「米国公認会計士の魅力やキャリア情報、及び「グローバル×会計専門性」というキャリアを歩むうえで役に立つノウハウが得られる」というコンセプトで運営しています。
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ご参考にして頂ければ幸いです。
NPVとは?
まず、NPVもIRRも将来の新規投資を実行する際、Yes or Noの意思決定をサポートするために利用されます。
どんな投資かは不問だよ。例えば、工場ラインを新設する、新規システムを導入する、等色々と考えられるね
NPVとはNet Present Valueの略で、投資額としてのキャッシュアウトと、将来のキャッシュインを現在価値に割引いた場合、いくらとなるのかを計算し、新規に投資すべきなのか否かを判断する検討の材料とすることです。
結論からいうと、NPV>0の場合は新規投資実行すべき、です。
例として、以下の条件でNPVを計算してみましょう。
- 新規システムを新たに導入する投資案を計画中
- 導入した場合、1,000のコストが発生
- 導入した場合、毎年300のコスト削減が5年間予想される
- 新規投資に対する社内要求収益率として15%を使用(割引率として使用)
直感的に1,000のコストで5年間合計1,500のコスト削減が達成可能なので、なんとなく新システムは導入した方がよさそうですが、結果は以下の通りです。
上記の通り、NPV>0以上なので、新規システムを導入すべし、がファイナンス的な答えとなります。
5年間合計1,500のコスト削減効果は、時間価値を考慮し現在価値に割引くと1,005.6、となるということですね。
1,000のコストに対して1,500のコスト削減だから余裕で投資実行決定、かと思ったら、意外とギリギリ1,000を上回る程度の水準だったね。お金の時間価値は無視できないほど大きいということだね
大事なのは、現在価値へ割引く際に使う割引率です。お金には時間価値があるのでしたね(例えば、時間価値が年率3%だとしたら、手元の100円は1年後の103円と同価)。
では、どんな割引率を使えばいいのでしょうか?
ひとつの答えは、要求収益率です。
新規に投資をする以上は、新規に資金を確保しなければなりません。どこから確保するかで、調達コストは変わります。例えば、銀行から借りるのとサラ金から借りるのでは、そのコストは大きく違います。
新規投資のために新たに資金調達をしてくるのであれば、そのコスト以上はリターンを上げてもらわなければなりません。
新たに株主から新たに出資金を募る場合は、株主資本コストがその要求収益率の目安になるでしょう。新たに銀行から借り入れるのであれば、その金利が目安になるでしょう。
また、新規投資をする限りは、年率××%以上のリターンが欲しい、という期待水準感も社内に存在するはずです。これも目安になりますね。
ただし、実務上は、企業の加重平均資本調達コストであるWACCを割引率に使うことも多いと思います。全社目線で見た調達コスト以上はリターンを上げてくださいね、という考えですね。
なお、ここまで説明してきたことを踏まえて、NPVは高ければ高いほど良い、という原則を覚えておいてください。
以上がNPVの紹介でした。
IRRとは?
IRRとはInternal Rate of Returnの略です。
IRRは、NPV=0となるときの割引率を表します。
上で紹介したNPVの例であれば、15.24%(正確には15.2382364303265%)という割引率を使えば、NPVが0となります。
(下の図は割引率が15.24%の時のNPVの計算です)
NPVが0となっていますね。この時使用した割引率15.24%がIRRとなります。
IRRにおける投資の意思決定のルールは、IRR>要求収益率なら新規投資実行、です。
上の例でいうと、NPV計算時に使用した割引率が15%でしたね。この15%が要求収益率であり、IRRは15.24%で15%を超えています。よってこのケースでは新規投資実行、がファイナンス的な結論となります。
なお、ここまで説明してきたことを踏まえて、IRRは高ければ高いほど良い、という原則を覚えておいてください。
以上がIRRの説明でした。
NPVとIRRの使い分け
さて、投資の意思決定について、NPVとIRRの2種類の考え方が登場しました。
どちらを採用すべきでしょうか?
結論は、一つのプロジェクトについての投資判断をするときはどちらでも良い。複数のプロジェクトから一つの投資を選ぶときは基本的にはNPVを採用、です。
複数選択がある場合NPVを採用すべき理由は、NPVは将来のキャッシュフローの現在価値の「絶対額」がわかるから。
以下の例で見てみましょう。プロジェクトAとプロジェクトBからどちらかのプロジェクトを選んで投資を実行する局面です。
プロジェクトA (NPV:133.8、IRR:11.9%)
プロジェクトB (NPV:164.4、IRR:11.4%)
どちらも単体でみたら、新規投資Go、がファイナンスの結論です。
ただし、IRRとNPVはどちらのプロジェクトが大きいか、についての結論は分かれています。
- IRR プロジェクトA>プロジェクトB
- NPV プロジェクトB>プロジェクトA
こういった場合NPVを採用しましょう。NPVは将来キャッシュフローの現在価値の合計を表しているので、企業にもたらされる価値の絶対額がプロジェクトBの方が大きいため、です。
ただし、IRRの方が適用が簡単です。
なぜでしょうか?
NPVは紹介した通り、計算する上では投資額と将来キャッシュフローに加えて、割引率の設定が必要です。
一方のIRRは、投資額と将来キャッシュフローのみで計算可能です。よってIRRの方が適用が簡単といえます。
割引率の設定としてWACCを計算することも一苦労ですし、例えばある事業部の新規投資について考える際、(多角化している場合)全社の調達コストを適用することも違和感がありますよね。
細かい話なので詳細は割愛しますが、レアケースにおいてIRRが機能しないこともあります。
しかしながら、IRRはシンプルで適用が容易なので広く実務で使われています。
補足ーMBAとの接点
ファイナンスは将来キャッシュフローを取り扱い、それを現在価値に割引く、ということによって対象物の価値を測定したり、将来の投資の意思決定をサポートする学問でした。
ただし、ファイナンスにおいては、将来キャッシュフローそのものについては所与のものとして扱うことが多いです。
どういうことかというと、ある将来キャッシュフローが与えられたとして、それをどう考えるかということに主眼に置いている、ということです。
ただし、実際のビジネスにおいては、将来獲得できるキャッシュフローを最大化するために皆様日々励んでいることと思います。
そして経営者の仕事はまさしく将来キャッシュフローの最大化です。
では将来キャッシュフローをどのように増加させていけばよいか?という観点については、ファイナンスではそれほど扱っておらず、MBAの領域になります。
これまで会計からファイナンスへと続いていた物語が、ここで経営の物語とクロスします。
MBAでは将来キャッシュフローの最大化のための色々な手法を学びます。例えば、以下の通りです。
- 企業戦略
- マーケティング
- イノベーション
- 起業論
- 組織論
- 統計学
- 経済学 等々
このように、「過去の事象」のみを取り扱った会計から、管理会計とファイナンスを経由して、自社のみならず他社の視点も含めた未来へとつながっていくのです。
(補足)ファイナンスの側面から株式投資について考える
話はそれますが、ファイナンス的に株式投資を考えてみましょう。
ファイナンスに限らず、巷には株式投資に関する様々な本があふれています。
株価の過去チャートから将来の値動きを予想するテクニカル分析、という手法もあるよね
しかしながら、ファイナンス的には、株価は将来キャッシュフローの現在価値合計です。
よって、個別株式を買う場合には「将来キャッシュフローがより多く獲得できる」企業の株(例えば将来もっと商品が売れる、低コスト体質である、等)を買うことが、ファイナンス的には正解です。
更に、儲けを大きくするためには、将来儲かる企業の株を「安く買う」ことも必要になります。
高くかっちゃったら、いくら将来のキャッシュフローがあっても、儲けという観点からは効率はよくないよね
将来儲かる企業の株を見つけるためには、例えば、以下のような観点から、様々な調査が必要となります。
- ビジネス環境の分析(世の中の流れとして、将来何が起きそうか)
- ビジネスモデルの研究(どのように儲けているのか)
- 企業戦略の研究(どのような方向に向かっていく戦略を取っているのか)
- 競合他社の洗い出し
- その中での強み、弱みの整理
- その強みが世の中の流れに乗れそうか 等々
その上で、「割安」で買う必要がありますので、適切な株価の水準も検討しなければなりません。
かつ、将来の予想も含まれますので、左脳がモノを言う調査力だけでなく、右脳を使って将来をイメージするアートの力も試されます。
よって、個別株式投資で成功するためには、相当な努力とセンス(+運)が必要、ということになると、筆者は理解していますので、補足としてご紹介しました。
これが個別株式投資が難しい理由だね
一方で、ファイナンスは統計学を応用したリスクとリターンに基づく学問です。
ファイナンスに基づいてリターンを上げるためのヒントはいくつかあります。
まず1つ目は、リスクフリーの投資から得られるリターンです。
これは単純に各国政府が発行する国債はリスクフリーであり、不確実性がないので確実にリターンが得られると考えられています。
例えば、米国国債であれば年率数%のリターンが確実に得られる、ということですね。
2つ目は市場全体に対する投資です。
ファイナンスの中で、ポートフォリオを組んで幅広く分散投資することで、個別株式に投資した場合に負うこととなるリスクについては限りなくゼロにできることが証明されています。
(A社にしか投資していないと、A社が事業で失敗して株価が下落するようなリスクが存在する。一方で、複数社に投資していれば、A社が失敗しても他が成功し、全体としては損は出ないこともある)
ただし、市場全体に存在するマーケットリスクについては負うことになります。リーマンショック等が起き市場全体の株価が下落することはもちろんある、ということです。
従って、ファイナンス的には株式市場全体に投資することで、(市場リスクを除いた)個別株式に投資するリスクは回避することができる、という結論なのです。
また、有用であることに、ファイナンスに付随して、株式投資市場全体のリターンが計算されています。
長期的にみれば、過去実績としては、株式市場全体に投資することで、(どの国の市場かにもよりますが)5%程度のリターンは得られるようです。
現在は株式市場全体に投資できる金融商品もたくさんあります。例えば、Topixに連動する金融商品等です。
株式市場全体に投資した場合、過去の実績に基づくと、日々の値動きで見たら損をすることもあるが、長期的にみたら年率5%程度(マイナス金融商品を組成した会社への報酬や手数料)はリターンがある、ということですね。
ただし、株式市場全体には、パフォーマンスが悪い企業も含まれています。その結果が、5%のリターンということです。
つまり、多くの将来キャッシュフローが獲得できる優良企業のみに投資すればもっとリターンを得られるはずですが、個別株式のリスクを回避するためにハイリターンを放棄している、とも解釈できるということです。
個別株式はハイリスク、ハイリターンということだね
時間をかけてより優良な企業を探してハイリターンを求めるのか、面倒なので時間をかけずに(優良でない企業も多く含んだ)市場全体に投資して一定のリターンを求めるのか、その投資方針は予め決めておく必要がありそうですね。
いずれにしても株式投資は自己責任です!
シリーズのまとめ
本シリーズも最後です。まとめてみたいと思います。
会計は「過去」の事象を主に扱います。企業の一定期間の業績の報告を、過去比較や横比較ができるように一定のルールで実施してもらう、ということが会計の目的の一つでしたね。
報告のツールとして財務三表があり、財務三表は複式簿記で作られています。
会計で積み重ねた数値を基礎として、未来の意思決定に役立てるように管理会計という領域もありました。
会計で取り扱わない「未来」の領域を補足するものがファイナンスでしたね。
ファイナンスにおいては、会計では扱われない新しい概念(EBITや株主資本コスト等)が出てきましたね。お金に時間価値があることを考慮したNPVやIRRを使って、どのように投資の意思決定をしていけばよいか、についても紹介しました。
そして、ファイナンスの先には、ファイナンスがある程度所与のものとして置いている将来キャッシュフローを最大化するためにどのような経営していけばよいかという観点で、MBAとしての経営の領域へと物語が繋がっているのですね。物語が進むにつれ、視点も自社のみから他社を含めたものを中心になっていきます。
以上が会計の全体像です。
ビジネスに携わっている人やこれから社会人になる人が、ビジネスの中核をなしている会計のエッセンスを知らないわけにはいかないと思い、「これだけは知っておいて欲しい!」という内容について、「これだけ!」シリーズとして情報発信をしてきました。
公認会計士の試験勉強を始める方も、会計の世界の全体像が頭に入っていると理解力が違ってくると思います。
ということで全11回のシリーズを通じて、会計の世界の全体像はご理解頂けたと思います。
(本当は8回ぐらいの予定でしたが、思ったよりも熱が入ってたくさん書いてしまいました…)
冒頭にも説明しましたが、理解のためざっくりと、かつ平易な言葉・用語で説明したので、もっと詳細に学びたい人は個別に他の書籍を手に取って頂ければと思います。
それではありがとうございました。Vi ses!
ありがとうございました!
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