God dag!Lone Wolf会計士です。
今回は企業価値評価で使われる主要な手法である、インカムアプローチについて解説していきたいと思います。
それではいってみましょう。
※企業価値評価の全体像につきましては、以下の記事を参考としてください。
このブログはこんなブログ
このブログは「グローバル×会計専門性」を目指す人を対象に、「米国公認会計士の魅力やキャリア情報、及び「グローバル×会計専門性」というキャリアを歩むうえで役に立つノウハウが得られる」というコンセプトで運営しています。
前提知識はゼロかつ初心者向けの記事のため、「グローバル×会計専門性」のキャリアを目指すつもりがない方でも、会計のエッセンスの理解に役立つ記事の執筆を心掛けています。
ご参考にして頂ければ幸いです。
インカムアプローチとは?
インカムアプローチとは、将来のキャッシュフローに着目して企業価値評価をする手法で、企業価値評価の中で使用される主要な手法です。
つまり、ある企業が将来獲得することが期待されるキャッシュフローを見積り、各キャッシュフローを現在の価値に換算し(=現在価値に割り引き)合計すると、いくらの価値があるのか?というアプローチにより、その企業価値を算定する手法です。
以下の図はインカムアプローチの代表的手法であるDCF法イメージ図ですので、ご参考ください。
インカムアプローチのメリット
インカムアプローチのメリットは以下にまとめておくよ
- 市場に公開されている以上の企業内部情報を使い将来のキャッシュフローを予測することができるため、他の手法と比較して詳細な内部情報を企業価値に反映することができる手法である
- 株式市場に上場している等の制約がなく、一般的にすべての企業に適用可能な手法である
- 将来のキャッシュフローを見積もり基礎とすることから、ファイナンスという学問とも整合的である
インカムアプローチのデメリット
インカムアプローチには以下のようなデメリットもあるよ。見積りや前提だらけなので不確実性が大きい、ということだね。
- 将来キャッシュフローの見積りはそもそも不確実性が高く、その不確実なものに依拠する手法である
- 経営者の主観が反映された予測に基づいているため、達成が困難な強気な予測となることも多く、客観性が乏しくなることも多い
- 将来のキャッシュフローを現在価値に割引く際に適用される割引率も一律に決定されるものではなく、様々な前提を置いて試算されるものである
インカムアプローチの代表的な手法
インカムアプローチの代表的な手法について紹介します。
- ①Discounted Cash Flow Method(DCF法)
- ②Dividend Discount Model(配当還元法)
①Discounted Cash Flow Method(DCF法)
DCF法は、債権者と株主に還元可能な事業からのキャッシュフロー(=フリーキャッシュフロー)を将来に渡って毎年試算し、その各フリーキャッシュフローを現在価値に割り引き合計した(=事業価値)上で、非事業資産を加算し、企業価値を算出するものです。
企業価値 = 事業価値(=フリーキャッシュフローの現在価値の合計) + 非事業資産の価値
DCF法は企業価値評価の中で最もメジャーな評価方法のうちのひとつです。
企業は投資家達(銀行からの借入金や株式出資)から資金調達して、その資金を元手にビジネスを運営します。
当然、お金を出している投資家達は、相応のリターンを求めます。
DCF法は、事業運営の結果として企業が生み出す、投資家達へ還元可能なキャッシュフロー(=フリーキャッシュフロー)を計算し、それを現在の価値に換算するといくらになるのか?を計算するというアプローチで企業価値を算定する方法です。
なお、一部事業に使われていない資産(=非事業資産)もありますので、その価値は別途加算処理をします。
以上から、株主や債権者への配分前のフリーキャッシュフローを計算する必要がありますので、フリーキャッシュフローの源泉となる事業からの利益はEBITを使用します。
その後、キャッシュに着目しますので、EBITから税金の支払いを考慮した後に、実際にキャッシュが流出しない減価償却費を足し戻し、費用とは別にキャッシュが流出する設備投資費や運転資本の増減額を調整します。
このように、事業から得た税引後利益から、事業運営に必要なキャッシュを除いた部分を、フリーキャッシュフローと考えるのです。
以下にサンプルとして、DCF法によるフリーキャッシュフローの計算のサンプルを掲載しておきます。
このように計算されたフリーキャッシュフローは将来のキャッシュフローなので、現在価値へと割り引きます。
フリーキャッシュフローは債権者と株主から資金調達をした資金を基に生み出されていますので、その資金調達のコストを考慮するため、現在価値に割り引く際はWACCを使用します。
調達した資金(借入金と株主からの出資金のMix)のコストであるWACCは、年率xx%という投資家たちの期待収益を表しているよ。
投資家達は投資した資金はこの期待収益率で将来増えていくと考えていくから、現在価値に割り引くときはこの期待収益率としてのWACCを使うんだね
フリーキャッシュフローを現在価値への割引くやり方は、WACCを10%として、以下のサンプルのようなイメージです。
なお、現在価値に割り引かれた企業価値は、債権者と株主の両方の取り分を表しています。よって株式の価値(=株主の取り分)を算出する場合は、別途計算する必要があります。
株式価値は、債権者の取り分としての有利子負債の簿価(借入金の簿価)を企業価値から控除することで計算します。
会計上、借入金の簿価は将来の元本の返済部分と金利の支払金額合計の現在価値になっているから、債権者の取り分とほとんど同義だね
もちろん有利子負債の時価評価をすることは理論的に正しいのですが、借入金は変動金利で設定されていることも多く、市場金利からあまりにもかけ離れた金利が設定されていない限りは、簿価=時価とみなせることが実務上多いです。
まとめると、DCF法に必要な情報や各種計算式は以下の通りです。
- 企業価値 = 事業価値(フリーキャッシュフローの現在価値の合計) + 非事業資産の価値
- フリーキャッシュフロー = EBIT×(1-税率) + 減価償却費 ー 設備投資費 + 運転資本増減額
- 割引率 = WACC (Weighted Average Cost of Capital)
- 非事業資産 = 事業に供されていない資産(代表的なものとして、銀行口座に眠っている余剰現金)
- 株式価値 = 企業価値 ー 有利子負債の簿価(≒有利子負債の時価)
②Dividend Discount Model(配当還元法)
配当還元法は将来に渡って株主へのキャッシュフロー(配当金)を直接計算し、それらを現在価値に割り引き合計することで株式価値を算出する方法です。
基本的に上で紹介したDCF法を優先的に使っていくことが多いですが、一部DCF法が適用できない場合があるので、その場合に代替的に使われる方法、とご理解頂ければよいかと思います。
例えば、お金そのものを扱っており、お金が資金調達というより売上原価の性格が強い金融機関において、配当還元法が使われることが多いです。
DCF法はEBITを基礎としてフリーキャッシュフローを計算しているけど、金融機関については逆に金利自体が事業収入の側面があるので、それを除くという概念が金融機関には合わない、ということだね
なお、配当還元法は配当金の政策に影響を受けたり、またそもそも成長企業においては無配当の企業が多い(配当金を支払うのではなく成長事業に再投資)ので、この方法は合致しないこととなります。
また、配当還元法では株主へのキャッシュフローのみを計算していますので、現在価値に割り引く際の割引率はWACCではなく株主資本コストとなります。
まとめると、配当還元法に必要な情報や各種計算式は以下の通りです。
- 株式価値 = 配当金の現在価値の合計
- 割引率は株主資本コストを使用
- DCF法の代替的な手法。金融機関の企業価値評価でよく使用される
ターミナルバリューとは?
企業のキャッシュフローを永遠に予測することは不可能であることから、一定期間の将来キャッシュフローを予測した上で、それ以降の年度については、事業が安定し一定のキャッシュフローが継続すると仮定し企業価値評価を行います。
この予測期間以降のキャッシュフローを予測最終年度の現在価値に割り引き合計したものがターミナルバリューと呼ばれます。
ただし、基本的な考え方として、「事業が安定し、将来獲得されると期待されるキャッシュフローが安定するまで」は、各年個別に将来キャッシュフローを見積もることが必要です。
業界によって違うけど、一般的には5年程度が目安となっているね
ただし、あまりにも先の将来は不確実性が高いので、20年も30年も先まで予測することは合理的ではありませんよね。
従って、一定年数が経過後は事業が安定し、以降は一定の成長率が維持される(もしくは成長率なしで継続する)、との仮定を置くことが一般的です。
上で出てきた図の再掲となりますが、ターミナルバリューに焦点をおいたイメージ図が以下の通りです。
(補足)インカムアプローチにおける将来のキャッシュフローの見積り
以上で解説しましたが、インカムアプローチとしては、将来獲得することが期待されるキャッシュフローを見積もる、という作業が必要になります。
一方で、ファイナンス的には将来キャッシュフロー所与のものとしてそれをどのように現在の価値にするか、という部分に主眼を置いています。
しかしながら、そもそもどのようにして将来のキャッシュフローを計画し、企業の経営者としてその将来のキャッシュフローを最大化していくのでしょうか?
ここで、会計からファイナンスと続いてきた物語が、MBAの各科目とも交差することとなります。
例えば、以下のような具合です。
- キャッシュフローを最大化するためには、どのように企業戦略を立案するか?
- 戦略に合致するようなマーケティング戦略はどのようにするのか?
- 新規商品開発として、何かイノベーションを起こせないか?
- その戦略を実行するためにどのような組織とするのか?
- 実行部隊のプロジェクトマネジメントはどうするか?
- 将来の経済の状況はどのようになっているか?等々
補足としてご参考までにご紹介しました。
今回はこの辺で。それではVi ses!
コメント