God dag!Lone Wolf会計士です。
今回は「会計監査って何?」という疑問をお持ちの方に対し、会計監査の全体像について解説していきたいと思います。
これまでお話した会計の基本原則、財務三表、複式簿記のルールを理解していれば会計の大枠はクリアですが、会計監査はこれらと関係も深いですので知っておいて損はないと思います。
それではいってみましょう。
このブログはこんなブログ
このブログは「グローバル×会計専門性」を目指す人を対象に、「米国公認会計士の魅力やキャリア情報、及び「グローバル×会計専門性」というキャリアを歩むうえで役に立つノウハウが得られる」というコンセプトで運営しています。
前提知識はゼロかつ初心者向けの記事のため、「グローバル×会計専門性」のキャリアを目指すつもりがない方でも、会計のエッセンスの理解に役立つ記事の執筆を心掛けています。
ご参考にして頂ければ幸いです。
会計監査とは?
会計監査とは、ステークホルダー(=利害関係者)が多い会社が発行する財務諸表(=財務三表+アルファ)については、独立した第三者がチェックし、会計ルールに基づいて財務諸表が作られているかを確認する、というものです。
すべての企業が同じ会計ルールに基づいて業績を報告していないと、過去比較や横比較が正確にできないからね。
もう少し業界固有に言い換えると、会計監査は、会社が作った財務諸表(財務三表+アルファ)が、会計ルールに基づききちんと作られていますよという意見を述べる、ということになります。
意見を、述べるんだね…
意見の述べ方について、例文を載せてみます。
監査意見
トヨタ自動車株式会社 2023年3月期 有価証券報告書 (global.toyota)
当監査法人は、[…]第119期事業年度の財務諸表、すなわち、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、重要な会計方針、その他の注記及び附属明細表について監査を行った。
当監査法人は、上記の財務諸表が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、[…]全ての重要な点において適正に表示しているものと認める。
色々とお堅い言葉を述べていますが、この会社は会計ルール違反をしていませんよ!と公認会計士(もしくは監査法人)が言っている、という程度の理解で十分かと思います。
会計監査を受けなければいけないのは、どんな会社?
すべての会社が会計監査を受ける必要があるのか?というとそういうことでもなく、ざっくりと以下の会社に該当すると会計監査を受ける必要がある、という理解で良いかと思います。
- 株式市場に上場している会社
- 上場していなくても規模が大きい会社
上場していれば株の売買ができますし、上場していなくとも規模が大きくなればステークホルダーもたくさんいるだろうから、会社の業績はきちんと報告しないとだめですよ、ということですね。
報告された業績に基づいて株を売買している人がいる以上、業績はルールに基づいて報告してもらわなきゃ困っちゃうよね。
要するに上場会社やいわゆる大企業は会計監査の対象なんだね。一方、多くの中小企業は会計監査を受けることが義務付けられていないということだね。
どうして会計監査が必要なの?
会計監査がないと、会計ルールから逸脱した財務諸表(=財務三表+アルファ)が公表され、そのルールから逸脱した財務諸表に基づいて投資(株式投資や貸付金、ビジネス上の取引等)の意思決定がされてしまう(=正しい投資の意思決定ができない)からです。
従って、たくさんのステークホルダーがいる会社の財務諸表は会計監査を受けることが必要となるのです。
儲かっている会社と判断したからお金を貸したのに、実は赤字で貸し付けたお金の返済が滞りました、という事態が起きたら大変だよね。
これまでお話した会計の成果物である財務三表の目的は、数あるステークホルダーに対し一律のルールで一定期間の業績を報告し、その会社の「過去比較」および他社との「横比較」を可能とすることでしたね。
会計監査がないと、この過去比較と横比較が正しくできなくなってしまうのです。
誰が会計監査をしているの?
会計監査は、公認会計士の独占業務です。よって、公認会計士もしくは公認会計士が集まって組織した監査法人によって実施されています。
会計のルールは作られました。後は、サッカーと同じです。ルールを逸脱しているプレイヤーがいれば、反則と判断しホイッスルを鳴らす人が必要です。
この、サッカーでいう審判をしている人が「公認会計士」であり、公認会計士が集まって法人となった「監査法人」です。
へー、公認会計士って名前だけは聞いたことがあるけど、実は会計ルールの審判をやっていたんだね
サッカーでいう審判のことを、会計の世界では「会計監査人」と呼んでおり、会計監査人が審判をする行為を「会計監査」と言います。
公認会計士とは?
法律上、この「会計監査人」には国家のお墨付きを得た「公認会計士」しかなれません。つまり、会計監査は公認会計士の独占業務、となります。
すごい、公認会計士は法によって会計監査を独占しているんだね…
そうなんです。独占免許ビジネスなんです。
公認会計士になるためには?
公認会計士になるためには、簡単にまとめると、以下の通りです。
- 日本の公認会計士の場合、まず公認会計士試験の1次試験(短答式)と2次試験(論述式)を突破する必要がある。試験合格後、一定期間の実務経験を経た後、修了考査(論述)と呼ばれる試験を突破することで、初めて免許が付与される。受験資格は特になく誰でも挑戦可能。
- アメリカの公認会計士の場合、英語の試験4科目(マークシート+一部論述)合格後、一定期間の実務経験を経た後、州単位で免許が付与される。受験資格(主に大学の会計関連単位)と実務経験要件は、各州によってまちまち。
とこんな感じです。
公認会計士試験やキャリアについての話は別の機会で触れますね。
会計監査って具体的に何している?
会計監査は、ざっくりと以下のような手順を踏んでいます。
- ①会計監査を実施している会社の全般的な理解
- ②監査計画の立案
- ③内部統制の検証
- ④実証手続きの実行
- ⑤会計監査の結論の決定
順を追って説明します。
会計監査を実施している会社の全般的な理解
このステップでは会計監査を実施するために、どのように実施していくかの計画を立てるための材料を集めます。
具体的には以下のような情報を集め、次のステップである監査計画の立案に役立てます。
- どんな業種なのか
- どんなビジネスを営んでいるのか
- ビジネスを取り巻く環境はどうか
- 会社の過去の業績はどう推移しているか
- 採用している会計処理はどのようなものがあるか
- 会計の数値が出来上がるまでの社内のプロセスはどんなものか
- どんなITシステムを利用しているのか
- 最新の貸借対照表や損益計算書の数値は、過去と比較して増減しているのか 等
監査計画の立案
前のステップで集めた情報を基に、どのような手順を踏んで会計監査を実施していくかの計画を立てます。
具体的には、どこに会計ルールからの逸脱が起こる可能性が高くて、それを見つけるためにはどのような証拠を集めればよいかを決める、というイメージです。
会計監査は、「会計ルールからの逸脱があるのか、ないのか」という証拠集めをしているんだね。
内部統制の検証
会計監査に関係する内部統制とは、簡単にいうと、貸借対照表や損益計算書の数値に直接関連がある社内業務において、ダブルチェック(もしくはそれ以上のチェック)が適切に実施される仕組み、のことを指します。
2000年前後に米国で大々的な不正があったことが発端で、「結局社内のチェック体制がしっかりしていないと、(例えば売上高といった会計の数値に対する)不正やヒューマンエラーは防げないよね」という考えに基づいています。
よって会計監査においても、内部統制がきちんと行われているかのチェックをするのです。
対象となる業務について、サンプルでダブルチェック(もしくはそれ以上のチェック)をしたかどうかの跡を書類上でチェックしていくイメージです。
実証手続きの実行
次のステップは「実証手続き」の実行となります。
聞き慣れない言葉ですが、これは要するに、出来上がった財務三表の数値をサンプルチェックする、というイメージです。
最終的に売上が100万円×100件=1億円であるならば、100件のうちサンプルで何件かピックアップし、本当に売上があるのか?100万円の売上なのか?という証拠集めをするイメージです。
会計監査の結論の決定
以上の4ステップを実施した結果、会計ルールからの逸脱は発見されたのか?それとも財務諸表(財務三表+アルファ)は会計ルールに基づいて作成されているのか?というテーマについて結論を出します。
現場で働く人たちとの接点は?
さて、最後に会計監査と(会計とは直接関係ない)現場で働くサラリーマンの物語が交差する場面を解説していきます。
会計監査のため、現場レベルでは以下のような対応が求められることが考えられます。
- ①ビジネス環境に関する、会計監査人からの質問回答
- ②決算日前の経理からの依頼事項の対応
- ③有効な内部統制の構築
- ④根拠資料の提出
- ⑤確認状への対応
順に解説していきます。
ビジネス環境に関する監査人からの質問回答
前のセクションで解説した通り、監査人はまず情報収集から始めます。
そのため、公認会計士はビジネスの最前線にいる現場の方にヒアリングセッションを設けることがあります。
例えば、公認会計士から以下のような質問を受けることがあります。
- 足元の景気
- 現在までの受注状況
- 今後の見込み
- 事業上のリスク
- 今後の不確実性、等のビジネス全般の質問
決算日前対応
決算日前になると経理から何かしらの作業依頼があることが多いと思います。
サラリーマン時代は決算日前になると(余計な)仕事が増えて憂鬱だった記憶があるよ…
例えば、以下のような対応依頼があると考えられます。
- 交通費や交際費の経費精算を期日までに実施する
- 決算日付近に出荷した各商品が、決算日前にお客さんにて受領されているかを確認する
- 工事をしている会社であれば、決算日時点で進捗はどの程度かを報告する
- 資材発注をした製品や部品は、決算日前に社内で受領しているかを確認する 等
これらはすべて、発生主義に基づいて財務三表を作成するために、ビジネス活動が決算日前に発生したかどうかを確かめることにあります。
社内システムに入力されていない限り、経理部で把握できない売上や費用もあるということだね。
有効な内部統制の構築
財務三表の数値に直接関連するような業務については、しっかりとダブルチェック以上が実施される社内プロセスを構築する必要があります。
現場の部門においては、不正やヒューマンエラーが生じにくくするようなチェック体制を整えなければなりません。
例えば、売上高を記録する業務プロセスについては、以下のようなチェック体制を取るかと思われます。
- 見積書は他部門からの商品単価情報に基づいて作成し、上長の承認を得る
- 顧客については与信部門による販売許可を得ていることを確認し、上長の承認を得る
- 売上個数や単価は適切にITシステムに記録され、上長の承認を得る
- 商品の出荷、もしくは顧客の受領を確認した後、ITシステムに記録する。上長の承認を得る 等
このような社内規定の構築や公認会計士からの質問回答、関連書類の提出は現場の部門での対応事項となります。
根拠資料の提出
こちらは会計監査のサンプルチェックに引っかかった取引についての関連書類を、会計監査人に提出します。
売上高の書類であれば、例えばお客さんからの発注書や商品受領書を会計監査人に提出するイメージです。
外部確認状への対応
現場の部門においては、公認会計士からの依頼で、外部確認状と呼ばれる証拠集めに協力することがあります。
外部確認状とは、確認状を第三者に対し送付し、直接会計の数値を確認してもらいそれを証拠とする、という会計監査の手続きです。
例えば、決算日に現金が100円あるとしたら、金融機関に確認状を送付し、本当に100円あるかどうかについて金融機関からの回答を得る、ということです。売掛金や買掛金についても顧客や取引先に確認状を送付することがあります。
確認状を送付するためには、例えば以下の点について公認会計士に協力する必要があります。
- 誰に確認状を送ればいいのかの情報を提供する
- 確認するべき金額はいくらなのかを記載する(上の例では現金100円)
- 公認会計士のフォーマットに基づき、確認状自体を作成する
- 適切な権限を持つ役職の人の承認を得て署名やサインを受領する
- もし、相手方の回答が「違います」であれば、なぜ違うのかその原因分析を実施する 等
4つ目の点は、例えば、見ず知らずの第三者に金融機関は現金の金額を開示することはないので、口座の名義人の署名やサインがいる、ということです。
最後に
いかがでしょうか?
今回は会計監査の概略と、ビジネスの最前線にいる方との関わりについて解説しました。
会計監査対応はどうしても付加価値が見えづらく、「決算のための余計な仕事」と捉えがちですが、公認会計士の会計監査に合格しないと大変な事になることを理解できれば、会計監査への向き合い方も変わるのではないかと思います。
それでは今回はこの辺りで。Vi ses!
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