God dag!Lone Wolf会計士です。
前回はファイナンスの中でも基礎知識となる株主資本コストや負債コスト、WACCについて扱いました。
今回は少々話を脱線させて頂いて、参考情報として、借入金や株式投資にまつわる色々な疑問を、ファイナンスの考え方も取り入れながら、少し考えてみようと思います。
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ご参考にして頂ければ幸いです。
無借金はいいこと?
まず、借金をしないことはいいことなのか?という疑問について考えてみたいと思います。
前回説明させて頂きましたが、株主資本、つまり株主からの出資金にコストがある、って何か違和感ございませんか?
私は非常にありました。
確かにそうだね…返済の義務はないし、配当金だって究極的にはあくまでオプションであって、払うことを確約している訳でもないわけだしね
株主からの出資金を取り付ける際も、借入金の金利と違い、将来の配当金支払いについて契約を交わしません。
一方の借入金は、元本は返す義務はあるし、利息だって定期的に支払う必要があります。
それでは、借入金は悪で、資金はすべて株主から調達している無借金の会社が優良、という結論になるのでしょうか?
(この質問を考える立場によっては答えは変わりますが)答えはNoです。
え、昔は無借金の会社は借金返済がなく倒産しそうにないので、魅力を感じていたんだけど…違うんだ
諸説あるとは思いますが、私が考えるその理由は以下の通りです。
- ①株主からの資金調達だけだとレバレッジが効かない
- ②借入金のコストより株主資本コストの方が高い
- ③借入金(負債)には節税効果がある
①レバレッジが効かない
①のレバレッジが効かない、という点ですが、まずレバレッジとは何でしょうか?
レバレッジと聞いたら、「てこの原理」や「シーソー」を思い浮かべて頂ければよいかと思いますが、レバレッジとは、借入金を活用することで自分が持っている資金より多くの資金が運用できる、ということです。
仮に自分が今1000万円持っている(会社に置き換えたら株主からの出資金が1000万円である)として、レバレッジ効果を利用しないとしたら、1000万円までしかビジネスに資金を活用できません。
例えば、ここで追加的に銀行から9000万円借り入れができた場合、1億円という10倍もの資金を利用できるようになるとします。
10倍もの資金を使えたら、できることも稼げるお金も変わってくると思いませんか?
結果的に事業の選択肢が増え、規模の利益も享受でき、従業員も多く雇え、売上や利益が大きくなるでしょう。
自分の資金としては、同じ1000万円しか用意していないのに、です。
借入金をすることで、自分で1億円稼いで貯めるまでの時間を買っているようなものですね。
その短縮できた時間の対価が金利の支払いなんだね
もちろん、9000万円借りたのにも関わらず事業が上手くいかなかったら…と考えるとリスクではあります。
一方で、無借金企業は新規事業や追加的な投資による新たな収益源や成長の機会を逃している、とも考えることができます。
皆様が個人投資家の立場なら無借金企業に投資しますか?
直感的に、無借金企業と適切な水準で借入金を活用し事業を運営している企業では、どちらが利益を多く計上し、ひいては将来の株価の上昇につながると思われますか?
これが、無借金企業が完全な解ではない理由のひとつだと考えます。
②株主資本コストは高い
これも前回の投稿でご理解頂けたかと思いますが、株主資本の方が借入金等の負債で資金調達する場合と比較して、コストが高いです。
なお、この株主資本コストは、貨幣で測定できないので会計の世界では扱っておりません。
会計には限界があって、その先の世界(ファイナンス等)がある理由だね
考えてみれば当然で、
定期的な利息収入や、資金を貸し付けている企業が倒産したときに債権者保護に優先権がある借入金と、
配当金も株価の値上がりも約束されておらず、いざ投資している企業が倒産したときは株券が紙くずとなってしまう株式投資では、
株主資本の方がリスクが高い=要求されるリターンが高い、ということになりますね。
よって、コストが高いソースから資金を調達することは、基本的に不利となります。この観点からも無借金企業は合理的な選択をしていないこととなります。
毎日の食料品を調達するために、高いデパートしかいかないことと同じだね。コストを気にするなら近所のスーパーにもいった方がいいよね
業績の報告上は(会計ルール上は)株主資本コストを費用として扱っておりませんが、この株主資本コストを意識した経営をしていく必要があります。
しかしながら筆者は、「株主資本にコストって本当にあるのか?なぜなら、業績が悪くても返済の義務はないし、配当金を支払う必要もないし、コストなんてかからないじゃないか?」と常々思っておりました。
では、株主資本コストと考えられる、株主たちの要求するリターン水準を達成できなければどうなるか?
特に何も起きるわけでもなさそうと思われますが、経営上以下のような負の影響が出てくるかと思われます。
- 株主たちの期待に応えられない会社の株価は手放したい株主が増えるし、資金調達コストより利益を出せていないことから企業価値(≠会計上の利益)が棄損し、結果株価が下落する
- 株価が下落すると、買収されるリスクも高まるし、株式市場での資金調達が不利になる。
- 株主全体から経営陣に対する業績改善圧力がかかり、経営の自由度が下がる。もしくは経営者がクビとなり交代させられる 等
株主資本コストについては、目に見える短期的なキャッシュアウトこそ少なそうですが、このコストを超えるような利益を出さないと、そもそも実質赤字みたいなものなのですね。
以上からも、高コストである株主資本のみに頼っている無借金企業が、少なくとも絶対的な解ではないことがわかります。
③借入金には節税効果がある
借入金の金利支払いは税務上損金算入可能なので、実質的に税金の支払いが安くなります。
下の図をご覧ください。前出した例で考えてみます。調達した資金は合計1億円で同じですが、1億円を株主からの出資金のみと、借入金を含めた形で資金調達した場合との比較です。
上の表の通り、借入金を利用した場合に節税効果が生じています(この例では45万円税金の支払いが少なくて済む=キャッシュアウトが45万円少なくなる)。
イメージは、個人で購入する住宅のローンが、毎年末の確定申告で税額控除となり、(上限はありますが)支払った金利に応じて税金が返ってきますので、これと同じです。
よって、(もちろん利益が出ていること、つまり節税する税金がそもそもあることが前提ですが)借入金を活用することだけで、45万円分のキャッシュを得をしていることとなります。
1億円の資金調達、という事実は同じで、その調達方法を変えただけで45万円も得をするってすごいね
これが、無借金企業であれば存在しない、負債の節税効果となります。
以上が負債の節税効果のパワーであり、このことからも無借金企業が絶対的な解ではないことがわかりますね。
あれ、でもそもそも金利支払いで150万円お金を支払っているので、45万円税金で得しても実質的にはマイナス105万円ではないの?
いい点に気が付きましたね。
金利支払いそのものが企業全体でみるとマイナス(追加的な費用)ではない点は、企業は誰のものか?という観点で考えてみれば解決します。
そもそも、貸借対照表(BS)からもわかるとおり、企業は資金を調達して(BSの右側)それを多様な資産として運用して(BSの左側)います。
つまり、企業は、負債の債権者と出資している株主のものなのです。
なお、企業が資金調達をして、ビジネス・事業のために使っている資金は「投下資本」と言います。
保有している資産を含めて、企業に価値があるとしたら、その価値は債権者の取り分と株主の取り分に分かれます。
借入金が増えれば、負債の債権者の取り分は増えます。この取り分は金利の支払いと元本の返済です。
債権者の取り分を差し引いて、企業の価値が残っているとしたら、それがすべて株主に帰属します。
上の図からもわかるかと思いますが、金利支払いは企業の価値の全体うち債権者の取り分が増えるだけで、全体の価値は変わりません。
むしろ、金利支払いの節税効果の分、企業の価値にはプラスに働くことになります。
あくまで全体の視点に立つと、金利支払いは追加的な費用ではなく株主の取り分が減る、ということだね
例えば、マンション投資を考えてみます。月100万円の家賃収入がある場合、マンション投資にかかった費用の全額を自分で負担した場合、100万円はすべて自分のものです。
一方で、ローンを組んだ場合、月100万円の家賃収入は得られるものの、いくらかは銀行に対して金利を毎月支払う必要がありますよね。
しかしながら、家賃収入100万円は不変です。金利は単なる自分と銀行間の取り分の話であることがわかりますよね。
最適資本構成 ー どこまで借入ができる?
無借金はいいことだらけではないことはご説明しました。
さて次に考えてみたいのは、借入金のいいところがたくさんあるので、逆に借金まみれの企業の方がいいのか?という点です。
こちらは直感的にもわかるかと思いますが、一定程度の比率を超える場合、更なる借入金の増加は好ましくありません。
一定程度、ってどのくらいなの?
この一定程度、という抽象的な割合に、絶対的な答えは出されていないことが現状です。
しかしながら、借入金と株主資本の最適な資本構成を見つけよう、という研究が学者の中でなされています。
有名なところでいうと「MM理論」というものです。
簡単に説明すると、理解しておく点は以下の通りです。
- 一定程度までは借入金の割合を増やすことで、節税効果が有効に活用でき企業価値は増加する
- 一定程度までは借入金の割合を増やすことで、コストが低い負債の構成比率が上がり、WACCを下げる効果がある
- 一定程度を超えると、今度は負債が返済されないリスクが上昇し、信用力が低下する
- リスクの上昇・信用力の下落により、株主投資家のリスクも上昇、結果としてハイリスクな株式に対する要求リターンが上昇する
- 要求されるリターンが上昇すると、株主資本コストの上昇につながる
- 株主資本コストが上昇すると、結果的にWACCが上昇してしまう
- 資金調達コストとしてのWACCが上昇すると、資金調達コストを上回る利益を出すことが難しくなり、企業の価値が棄損する
このように、ほどほどの借入金としておかないと、借入金を利用することによるメリットよりも、デメリットの方が勝ってきてしまうのですね。
どこまで借入金を活用すべきなのかは、業種だったり、ビジネスモデルだったり、競合他社の資本構成だったり、多面的な分析の中で決まっていくものです。
例えばですが、長期的に安定した収益が得らえる確度が高い企業(例えば、20年の特許権を得た製薬会社)は、銀行も融資に積極的であると考えられ、低金利で借りられるであろう負債を積極的に活用した方が良い会社(=借入金の比率を高めに設定しても大丈夫な会社)でしょう。
このように、ケースバイケースで借入金の利用度合いについて考えていくしか方法がないのです。
株価って高い方がいいの?
企業の経営者にとって、株価って高い方がよいのでしょうか?
なんとなくですが、(自分で自社株を保有していなければ)会社の株価が低かろうが高かろうが経営に関係ないと思いませんか?
更に、よく理由がわからない投機的な投資によっても株価は乱高下しがちです。
それでも、株価を意識した経営が必要なのでしょうか?
結論は、自社の株価を意識した経営をするべきで、かつ株価は高いほうがもちろん良いです。
なぜなら、株価が高いとメリットが多いからです。3つほどメリットを挙げてみます。
- ①資金調達が容易
- ②自社株を使った戦略の幅が増える
- ③株価上昇によるキャピタルゲインという形で、株主の要求リターンに応えることができる
①資金調達が容易
まず第一に、自社の株価が高いと新規の資金調達が容易です。
株価が高いということは、株を買いたい人が市場に多い状態です。
新たに事業を拡大したいと思い、資金が必要となったとします。
株を買いたい人がたくさんいる場合、新株を発行することで、資金調達が容易なことはご理解頂けるかと思います。
また、高値で購入してくれる状態ですので、少ない発行株式数で目標額を調達できる可能性もありますよね。
これが逆に、株価が低迷している会社が新たな株式を発行しても、購入してくれる投資家を見つけることに苦労し(=コストが追加で発生する可能性もある)、しかも低価格でしか購入してくれる株主しかおらず、資金調達に苦労することは目に見えています。
これが自社の株価が高いメリットのひとつです。
②自社株を使った戦略の幅が増える
2つ目のメリットは、自社の株価が高いことで、自社株を使った戦略の幅が増えます。
例えば、自社がある会社を買収しようとします。
もちろん、相手の株式を現金で買い取ることが一番オーソドックスな買収方法かとは思いますが、自社株を利用した手法もあります。
これは簡単にいえば、自分の株式を現金代わりに使って買収ができる、ということです。
株価が高く、自社株の価値が高ければ、このように自社株を使った戦略の幅が増えますね。
③株主の要求リターンに応えることができる
自社の株価が高いと、株式投資家達に対しキャピタルゲインをもたらすことができます。
これは株価上昇によって、購入したときの取得原価を超える部分が株主たちの利益になるものです。
キャピタルゲインにより、株主たちの要求リターンに応えることができれば、株主たちは口を出すことなく、安心して経営者に経営を任せることができます。
経営者にとってはクビになることもなく、株主たちからの口出しも少なく、経営戦略の自由度が上がりますね。
新規事業を始めるといった、新たなチャレンジも積極的にできるようになるでしょう。
株主資本コストを超えるような利益を出すことで、企業価値の向上も図れます。
このように、株主たちの要求リターンに応えることは重要です。
いかがでしたでしょうか?
今回は話が脱線しましたが、ビジネスを考える上での借入金との付き合い方や株主資本についてのトピックを扱いました。
それではまた。Vi ses!
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